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【ネタバレ有】英語学習者が『カムカムエブリバディ』大月ひなたのラジオ英語学習に思ったこと

2022年4月8日、およそ5ヶ月にわたり続いた朝ドラ『カムカムエブリバディ』が最終回を迎えました。祖母・母・娘の三世代ヒロインがNHKのラジオ英語講座で英語を勉強する話だと知って見るようになりました。私も三代目ヒロインの大月ひなた同様、会社勤めしながら英語を独学でやり直しているのです。

私はあくまでも英語学習者であり英語教育の専門家ではありませんが、朝ドラに描かれたひなたのラジオ英語学習を見て思ったこと、ひなたの具体的な勉強法を書きます。

(安子が英語を学んだのは戦前・戦後で現代とは時代背景が違いすぎるので取り上げません)

 

おことわり

・このブログには『カムカムエブリバディ』の途中までのネタバレが含まれます。ただしドラマの最終週の内容「安子とるいはどうやって再会したのか。最終回はどんな内容だったか」は一切書きません(書かなくてもひなたの英語学習については説明できます)。

私は英語教育の専門家ではありませんし、英語力も社会人の中では高い方ではありません(とはいえ少なくともリーディングとリスニングは平均的な日本人よりはできる方かな、と思います。海外旅行で英語で現地の人と簡単なやりとりならできます)。あくまでも一個人の意見として受け止めていただきたいです。

また、『カムカムエブリバディ』のあらすじや登場人物はここでは説明しません。分からないところはウィキペディアや公式サイトでお調べ下さい。

作中の年代や登場人物の年齢などはうろ覚えなので間違っていたらすみません。

『カムカムエブリバディ』大月ひなたの英語力、英語学習歴を振り返る

29歳でラジオ英語講座を聴き始めるまでの経緯

三代目ヒロインの大月ひなたは1970年代に小学校時代、80年代に高校時代を過ごします。同じく80年代に高校を卒業して、時代劇が大好きなので「条映太秦映画村」に就職します。

小学生のひなたは勉強が苦手で夏休みの宿題は8月31日に大慌てで片づけるタイプ。高3になってもそこは変わりませんでした。また、ひなたは小学生の時に白人の男の子に一目ぼれしてラジオの英語講座で英語を習い始めますが(母親に勧められた)6日で挫折して何も身に付きませんでした。

時は流れ27か28歳の時。時代劇人気の低迷で映画村の収入が落ち込んでしまったのですが、ひなたは「最近外国人観光客が増えているので英語で映画村のガイドをするのはどうでしょうか」と上司に提案します。しかし「時期尚早。英語ができるガイドを雇うにはお金がかかる」と却下されたため、自主的に英会話スクールに通います。

ところがスクールに通っても英語が話せるようにならずレッスンが終了。「聞き流すだけで英語が話せるようになる教材」や英語の本を買っても英語が話せるようになりませんでした。

(ただしスクールに通った後は外国人観光客の"How much?"という質問を聴き取れるようになっていたので英語を聴き取る力は養えていたようです)

1994年、29歳の夏、ひなたは母方の岡山の実家で「ある出来事」を経験します(詳しい内容は省略)。それがきっかけで京都の家に帰ってきてから早朝のラジオ英語講座「英会話入門」(講師は遠山顕氏。実在人物で現在も英語講師です)を聴き始めたのでした。

ここまでのまとめですが、ラジオ講座を始めるまでのひなたは

  • 最終学歴は高卒(おそらく普通科)。
  • 勉強は苦手だった(中学英語が本当に身についていたか不明。作中そのあたりは描かれませんでした)
  • 海外経験なし
  • 両親も日本人
  • 高校卒業から30歳近くになるまで全然英語の勉強をしてこなかった

でした。

大月ひなたがラジオ講座で英語を勉強した具体的な方法

これは、第99話に詳しく描かれています(ただしひなたによるナレーションで説明したので、ひなたが英語学習に奮闘する描写はあまり見られませんでした)

  • 1994年8月下旬より:朝、テキストを見ながらラジオ講座を聴き始める
  • ラジオ講座を聴いてテキストを読みながらシャドーイング(※)をする
  • テキストのスキット(会話文)を暗記して暗唱できるまで練習する
  • 会社の昼休みはテキストを読む
  • 夜は家で勉強。カセットに録音したラジオ講座を何度も繰り返し聞いてシャドーイング。辞書で単語を調べる。
  • 手帳に3行ほどの短い英語日記をつける

※シャドーイングとは簡単に言うと「見本の英語の音読の直後に続いて同じ文を音読する」という英語学習法です。詳しくは検索をお願いします。

 

『カムカムエブリバディ』は時の流れが早いのが特徴なのですが、第99話は1994年から1995年をあっという間に描き、次の第100話ではなんと1999年の春になっていました。99年の春の時点でひなたは映画村を訪れる外国人観光客と流ちょうな英語でコミュニケーションをとれるようになっています。

視聴者からしたら「昨日ラジオ講座で勉強を始めたと思ったら、今日はもうペラペラになっている」という驚きの高速展開(開始当初から展開は速いので驚きってわけでもないですが)。しかし作中では5年の歳月が流れています。ひなたは5年かけてラジオ講座で英語ペラペラになったのでした。

「本当にラジオ講座だけで、たった5年で英語ペラペラになれるのか」という点は後ほど考察します。

1999年時点の大月ひなたの英語力

前述の通りひなたは1994年から5年かけて英語を身に付けました。

1999年にはハリウッドの撮影チームが映画村を訪れます。「サムライ・ベースボール」という侍が出てくる映画を撮影するためです。

ひなたは事前に英語の原稿を用意し、撮影チームに映画村を案内しました。その時にアニー・ヒラカワという日系アメリカ人のキャスティングディレクターと出会い英語で会話し、やがて二人は仲良くなります。

このとき日本人俳優を対象に侍役のオーディションも行われるのですが、ひなたは事前に応募者の履歴書を英訳。撮影チームのスタッフとも英語で話します。それだけでなくひなたは、大部屋俳優の伴 虚無蔵とアニーらの逐次通訳までこなしました。単語が出てこなくて言いよどむシーンもなくペラペラ話せていました。

しかも、ひなたの語彙力は英検準1級~1級レベルです。

「ひなたがアニー・ヒラカワ(森山良子)らのハリウッド映画関係者と交わす会話には、学習レベルの高い単語が多数出てきます。第102話ではアニーから『あなたの英語は申し分ないわ』(Your English is impeccable.)と褒められており、この『impeccable』は英検1級レベルの単語。第105話ではひなた自身が文四郎の『侍というものを体現』という言葉を『embodies what a samurai is.』と訳しており、その『embodies(embody)』は英検準1級以上のレベルです。また第104話ではアニーに対して『お疲れでしょう』(You must be worn out.)と話しかけましたが、『worn out』は通常、“擦り切れた”とか“使い古した”を表し、疲れた様子を表現するのはネイティブ的な言い回しなのです」(アメリカ在住経験を持つライター)

出典:【カムカムエヴリバディ】ひなたの英語が上手すぎる問題!ハリウッド関係者も驚く語学力の源泉とは (2022年4月3日) - エキサイトニュース (excite.co.jp)

 

そういうわけでひなたは英検準1級~1級レベルで英語を使いこなせるまでに成長したのです。ここまで見るとラジオ講座だけで本当にそこまで上達できるものなのか疑問なのですが、ネット記事と自分の経験を基に考察してみました(基となる情報が少なすぎなのは分かっています。あくまで一視聴者の考察であることをご理解下さい)

本当にラジオ講座だけで大月ひなたレベルの英語力が手に入るのか?

結論を先に書きますが、「中学・高校で英語力をきちんと身に付けられた」人が「毎日、1日2~3時間英語を勉強し続ける生活」を5年以上するなら可能なのではないかと思いました(※あくまで英語教育の専門家ではない一個人の意見です)

専門家の見解

こちらのネットニュースでは『カムカムエブリバディ』制作統括の堀之内礼二郎氏によるコメントが紹介されています。

英語指導の塩屋先生も留学などをせず、日本にいながら英語を身につけられた方なのですが、相談したところ、目標を持って本気で真面目に取り組めば4~5年ぐらいで、あのぐらいの英語は話せるようになれますというお言葉をいただいたんです

出典:「カムカム」川栄李奈の驚きの英語力!語学指導の先生も脱帽|シネマトゥデイ (cinematoday.jp) ※2022年3月23日配信

※「英語指導の塩屋先生」とは塩屋孔章氏のことです。

「目標をもって本気で取り組めば」…身につまされます。自分の勉強の足りなさを実感しました。これでも私は1日20~30分は英語学習に時間を使っているのですが、時間が全然足りてないってことですね。

外国人観光客とのコミュニケーションを通じても英語を学んだのでは?

別のネットニュースではこのような推測も載っていました。

「英語力の向上にはなによりも実践が必要。その点、条映太秦映画村に勤務するひなたは、日常的に外国人観光客に接する機会があり、普段から英語のヒアリングもスピーキングも鍛えられているのでしょう。それを象徴していたのが、3月23日放送の第100話でお化け屋敷を道案内した後に『Have a spooky time!』(気味悪がっていってくださいね)とおどけた場面。これはハロウィンでの決まり文句ですが、インターネットがまだ一般的ではない時代の日本人には知る機会の少ない言葉です。ひなたは会社でもパソコンではなくワープロ専用機で書類を作成していましたし、作中の2001年にはまだスマホもありませんから、彼女はネットからではなく外国人観光客との生の英会話を通じて、こういった生きた英語をどんどん吸収していったのではないでしょうか」

出典:【カムカムエヴリバディ】ひなたの英語が上手すぎる問題!ハリウッド関係者も驚く語学力の源泉とは (2022年4月3日) - エキサイトニュース(2/2) (excite.co.jp)

ラジオ講座だけでなく、職場環境も英語習得に役立っているみたいですね。

「スクールに通うだけでは英語は身につかない。地道な努力が大事」と説くネット記事

出典:『カムカム』から学ぶ英語学習 3世代を繋ぐ「ラジオ英語講座」のクライマックスは?(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース

ひなた(川栄李奈)が苦戦する姿に共感|Real Sound|リアルサウンド 映画部

これは戦前・戦後にラジオ講座で英語を学んだ安子の事例ですが、こんな記事もありました。ラジオ英語講座だけで英語が話せるようになるのか?『カムカムエヴリバディ』安子の事例から考えてみた(QJWeb クイック・ジャパン ウェブ) - Yahoo!ニュース

(ちなみに安子は高等小学校卒で学校で英語を習った経験がありません)

私の考え方

以上に挙げたネットニュースは本当のことを言ってると思いますし、英語指導の先生が「本気でやれば5年位であのレベルに達する」とおっしゃるならそうだと思います。

作中では明確に描かれなかっただけで、ひなたは少なくとも月曜日から金曜日(講座が週6日制だったら土曜日も)に毎日2-3時間は英語学習にあてていた、と推測しています。

決して高卒の方を見下すつもりはありませんが、ひなたが勉強が苦手だった事を考えるとそれぐらいやらなければあのレベルには達しないと思います。

また、ひなたが1994年8月の時点で中学・高校の英文法や単語をどれだけ覚えていたのか、在学中にどれぐらい理解していたかも気になります。

一学習者として断言しますが、中学・高校(特に中学)の英文法や単語を疎かにしていては英語は使えるようにはなりません。

ひなたが学んだ「英会話入門」の後継講座は「ラジオ英会話」ですが、現在の先生は2021年度1年かけて英文法を教えました。「ラジオ英会話」なのに文法重視なのは、言いたい事を英語で言うには文法(と語彙)が必要だからです。

失礼ですが、ひなたの性格とフルタイム勤務というライフスタイルから考えて5年以上かかっても不思議はありません。

また、作中では安子とるいが一緒に聞いていた「英語会話」の後継講座しか存在しない事になっていたかもしれませんが、英検準1級〜1級レベルに達するにはもっと上のレベルの講座も聴く必要があります。

それと、るいとひなたが朝「英会話入門」を一緒に聴きながらシャドーイングをするシーンがありましたが、あの時点で英検準1級〜1級に達してると思われるひなたがテキストを見ながらシャドーイングをしているのも不思議でした。決して脚本家にイチャモンつけるつもりはないですが、ひなたレベルなら「英会話入門」はテキストを見なくてもシャドーイングできるんじゃないか、と思いました。

一方でるいはテキストを見ずご飯の支度をしながらシャドーイングしています。

るいって英検準1級〜1級レベルに達していたんだろうか?小学生のひなたがラジオ講座を聴かなくなってからもずっと「英語会話」と後継の「英会話入門」を聴き続けている設定ですが、ひなたが27か28歳の時点で「難しい事は(英語で)話せない」ってるい本人が言ってるんですよね。

それでも20年前後(?)同じラジオ英語講座を聴いてシャドーイングを続けていればあんなふうにできるようになるのでしょうか?

実は私はシャドーイング苦手なんですよね。

いずれにせよ、カムカムエブリバディがラジオ講座での英語学習方法をきちんと描いてるのは分かりました。

ドラマだと、英語習得は主人公の才能が為せる技…みたいな展開もあり得ると思ったのですが、英語学習の過程は現実にあり得る内容だと思いました。

(追記)逐次通訳について

(この項目は公開後に追記しました)

前述の通り、ひなたが虚無像とアニーの会話を逐次通訳するシーンがありましたが、逐次通訳は日本語と外国語ができるだけでは務まりません。

 

通訳の仕事をするには、高い語学力を持っていることは必須条件です。しかし、語学力があるだけでは務まりません。
発言内容を漏らさず聞き取る集中力、相手の意図を正確に把握する理解力、即座に異なる言語で表現する表現力など様々な技術が必要です。

出典:通訳になるには?必要な資格やスキル│エラン

あくまでも私個人の推測ですが、ひなたが逐次通訳をできたのは侍や映画という自分の普段の仕事に関わりが深い話題だったこと、虚無像とは以前からの知り合いだったことが理由ではないでしょうか?

(他にも五十嵐文四郎という人物もその場にいて虚無像と話しましたが、彼もひなたとは親しかったです)

いずれにせよ、逐次通訳は語学力だけで務まる仕事ではありません。

 

【参考】実際にラジオ英語講座で1年間勉強した鈴木福くん(出演当時高2)の実例

厳密にいえばリスナーとして学んだのではなく生徒役として学んだのですが、俳優の鈴木福くんは2021年度、高2の時に「中高生の基礎英語 in English」という中学卒業レベルの英語力のリスナー向けのラジオ講座に生徒役として出演しています。

この講座は最初と最後の挨拶以外全部英語です。ネイティブスピーカーも日本人の先生も英語で英語を教えます。もちろん生徒役も英語で受け答えし、英語で自分の意見を言えるように勉強します。

先生方と直接コミュニケーション取れるのはリスナーとの大きな違いですが、番組収録中ずっと英語を話さなければならないという、従来の語学番組の生徒役とくらべたらかなり厳しいお仕事でした。

2022年の3月、講座の最終週を迎えた時の音声は(リンク切れになったので削除しました)

4月には先生方から声をかけられても福くんは短い受け答えにとどまっていました。しかし翌年3月には「なぜ英語を勉強するのか」という質問に堂々と英語で自分の考えを述べています。

リスナーか生徒役かの違いはありますが、ラジオ講座をきちんと続ければ1年でここまで上達する、という参考にはなります。

なお、4月18日からの第3週と4月25日からの第4週は鈴木福くんの昨年4月の出演回が再放送されます。聴き比べると1年間の成果が分かります。

放送から1週間は「らじる★らじる」というアプリの聴き逃しサービス、それ以降は「おうちで英語学習2022」で聴けます。